日報

あるいは遺書

りゅう

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

水中に吹く風

白いもやもや 羽根が生えたら 魂の重さ 虹のひかり アメーバだった頃の ノアの洪水 蔦が絡まる オルゴールの信号 家に帰ろう 泡を吐き出して 手のひらのカナリア 声の形 お祈りをします 水中に吹く風 水中のゆらめき もういない人が今ここにいる 沈んでいく …

無題

はらはらと落ちた花 喜びと悲しみの狭間にある何か形容し難い気持ち 夜が夜でなくなるときを待ってる まあいっか、ため息 祈り方を教えて 戻れなくなる 朝、昼、夜、夢 戻れなくなったっていいじゃないか 今はただ水中に沈める 季節があればいいね 湖の青い…

無題

ピアノの粒の階段をぐるりと駆け下りる そのたびに陰影は濃くなって 今ここにいるのか 今そこにいるのか 目を閉じたときの魂の重さを測っている 遠くにこだまする太陽の声をきく 窓から浸透する影に 思い出し方を忘れた記憶を手渡した 天井も壁もどんどん影…

無題

赤い影が炎のように揺らめいて綺麗だった また子供になりたい 橙色の天使の髪飾りがきらきら 窓を開けたいよ 奇形の子の声に耳を澄ます 悪夢の中でこそ光をイメージして 悪夢の中でさえ光をイメージした 悪夢の中でのみ光をイメージできた お母さんは悪くな…

無題

花垂れの夜 命が消えるときに出す小さなひかり 露をたくさん吸った星が 窓をかすかに震わせている 影の中に隠れた影 虹色の輪郭がぐにゃりと歪んで 確かだと信じた日々 やかんから立ち昇る湯気が少しだけ部屋を温めた 深い森の中では 小さな異世界の言語が飛…

交換

飛行機 胎内の夢 金魚鉢の中 風邪をひいた日、NHK教育 鍵盤を叩いては 午前中のある時間だけ日溜りができる場所で ビー玉を転がす きらきら 眠りの中で目覚めて 雲を食べる 秘密基地 柔らかいノイズが好き 昆虫の足音 ムーミンの家 パッチワーク 空の青と海…

白い虹、青い街

硝子のように静かな木霊 幸運を捕まえた しんと耳をすまして、そばにおいで 体温の気配を感知して この物語がどこへ連れて行くのかまだ知らないでおきたい 羽根が開いたら旅行しよう 小さな翼、ぱたぱた ゆるやかに、うららかに さんさんと降る春のまばたき…

どちらでもないもの

粛々と家事をする 光の雨が染み込んで 隠れていたものを 丁寧に見つける 学校も図書館も閉鎖されて 不要不急の外出はお控えください 桜が咲いた 子供たちは旅に出る 虹の橋を渡る 昆虫の足音 蔦の絡まった日本家屋 素粒子のゆらめき 甘い香り 火葬場で燃やさ…

無題

自分が幸福であることに戸惑う必要はないんだ 硝子を湖に沈めながら 魚の人はどこか遠くを見ている 海を渡る風に乗って行きたい まだ太陽の香りの残った街を 数を数えるように足早に通り過ぎて 記憶が熱を帯びていく 絵の具が混ざるみたいに 銀河鉄道の夜 仏…

病院

太陽の欠片を心臓に突き刺して 笑って見せた あなたの最期に痛みがありませんように 影が部屋を満たし始める これまでと違う方法で息をする ここにいるということを確かめるためには時間が必要だから 出口はない 風が髪を揺らす 混沌とした渦に引きずり込ま…

無題

あなたの子供は死なない 笑う とても静かな気持ちになって 逆さに見下ろした空は夕焼けで カナリアの声を真似ながら君は 青へ まだどこにもいないあなたに向けて 白い記述をして 泡を吐き出す 深淵は見ている 誰かの何かを深くすくい上げるために 何かの誰か…

振動を拾い集める 次の形に魂の輪郭を馴染ませていく 神様の名前を忘れた 最初に見ていた景色 時間は流れたり、止まったり、また溢れ出したり いざなう橙色の天使 愛だったかもしれないもの 静かな車内に赤ちゃんの声だけが響いている 今はただ目を閉じるこ…

弱くなる

柔らかくてふわふわとしたものを敷き詰める アメーバだった頃から知っている音楽 天井に星を散らして 風船を飛ばそう 空の泉に沈む沈む沈む 皮膚の奥深くまで地球が染み込んでくる 鳴り続けるリズム 金色の雨が降る どこでもいいからどこかに行きたいよ 君を…

魂の境界

黄金色の日差しに染まって 眠り続ける 温度を伴う固有の声が 星の欠片を辺りに撒き散らして 静寂の震えに満たされる 花を飾ろう、君のそばに 意志を失った瞳に 愛に満たされた空の泉に 深く、深く、深く、深く、 沈み込んでいく 行き場を失くした影が 四角く…

小さな春の台風

小さな祈りを両手で抱いて 少女だった頃から無数の星は蠢き 痛みと光のシンメトリに初めて触れた時 生まれたばかりの空を見上げた 君はどこから来たのと 答えのない問いかけをする その沈黙が愛おしいのだ 目を閉じて 小さな風船になって 上昇気流に巻き上げ…

無題

深い渦に飛び込むしかない 心臓を整えて 形と影をしっかりと抱いて おれはあの記憶を忘れるのだろうか 大勢の人が少しずつ癒してくれた 彼を処刑してはならない 小さな囁きでしか届かない声がある それを掻き消してはならない 海月のように光を感知して 快と…

呪いを打ち消す波動

春の幽霊を呼んで 木陰に座ろう 活字は誘う 反時計回りに動き出す 知らない国を旅する 名前のない国 言葉のない国 空気の中から愛を引き出して 影と対話する 重力のない渦 歌の匂い 廃墟の神殿に射す光 陰影 白と黒の間 僕はだんだんいなくなる 目を閉じて …

猫について

硝子を拾って水に沈める 私は水を知っている それは遠くからもたらされる ねじれるように踊る 二面性がある 楽しいけど苦しい 深く深く祈る 形は形であるというだけで虹色にきらめく 保護されている 納屋の片隅で埃を被る大切な約束 かつて父と母が存在し 私…

君が自転車に乗れるようになった日

君が自転車に乗れるようになった日 僕は自分の匂いしかしない布団を出て 風の抵抗をなくした鳥と 愛について語り合った お日様の白さは少し怖くて あたたかかった 僕はなんとなく孤独になった気がした 君が自転車に乗れるようになってよかった 幽霊たちが集…

ゆらめき in the water

しんとした冷たい水の中で 息をする都市 彼の夢を、彼の嘘を 反映して そこに行こう、買い物しよう 公園でキャッチボールをしよう 魚になることは簡単だ 口から泡を吐けばいい 僕は満たされたい 僕は君になりたい 学校が休みになって 寝ぼけた頭でNHK教育を…

失われ

目には見えない小さな子供たちが 僕たちの沈黙を淡く金色に染めて 眠っていた記憶と再会する それは新しく解釈される 星の巡り方によって伝えられた通りに 影は白く塗られ 夕刻の街は青く染まった 買い物袋を提げ 忙しそうに通り過ぎていく人々 口からファン…

春の幽霊

白い服を着た女性が海と向かい合っている 誰かが描いた絵に迷い込んでしまったみたいに 夜明け前の蝶が 真実を知った子供が 再び巡り会うみたいに 言葉は無力だと思う 深い青に血が混ざり出す 慈しみの涙 止められない不安が君を見つける前に サーカスの綱渡…

昆虫

靴紐を結んで 扉を開けて 白い光の中に消えていく 小さな子供たち 太陽が誰の上にも平等に降り注ぎますように 君が小さな幸せを見つけられますように どうか夜を嫌いにならないように 空が青い 昆虫 一緒に眠ろう ただ生まれただけの僕ら 甘い香りのする花に…

細胞の中にいる君へ

細胞の中にいる君へ 海を渡る風のような声で 宇宙の向こう側にある何らかの意志まで もうこれ以上争わないで もう何も思い煩うことはない 変化してしまうことを受け入れる 愛について考えることはしない ただ耳を澄ますだけでいい 夏の日の記憶が自動的によ…

西陽の射す部屋

彼の清潔な魂をどうか守ってください 身体の力の抜き方をたくさん知っていること 記憶の中にしか存在しない場所に行こう 透明な川の流れに足を浸して 流動的な神を手で掬いとる 僕は僕であることをいつでもやめられる 今日の夕飯何にしよう 雲が流れる それ…

あたたかく赤い鼓動

その深い泥の中になにを沈めた? 人が踏み入れるべきではない領域 ひんやりとした静謐な空気 安らかな顔で眠って 星の屑を吐き出して また安らかな顔で眠って 止めどなく季節を知覚して 愛と自我の境界を近くする あなたの周りで素粒子が踊る 過去と未来が混…

どうせいつかは消えるのだとしてもこれを書き記さなければ前に進めない

どんな目に遭っても できるだけちゃんとした生活を淡々と続けたいと願う 何もかもを失くして 薄闇の中で雲が流れるのをただ見ている 風が木の葉を揺らす音が聴こえる 誰かが心臓の部屋をノックする 僕の中の小さい僕、君の中の小さい君 どう考えても不可能な…

わすれる

太陽の下で 子供の頃の意識状態で 感受性の糸を交互に絡ませて 青い蝶の舞う方向へ 列車の横切るタイミング 口の中に甘い香り 心臓の中の部屋で泣いている人がいる 誰かが呼ぶ声が聴こえる 誰かが物語を語りかけようとしている 未だ知らない不思議な名前 静…

あくび

感情が絵具のように混ざり出す 嫌な感覚じゃない たくさんの言葉がファンタの泡のように浮かんでは消えていく 切り取られた映像や音 体温や匂い、いつもそこにあった 子供の手を引く母親、桜並木 足早に横切る野良猫 生き場所をなくした幽霊や 不安で眠れな…

最果て

靴紐がほどけていることに少し前から気がついている 煙草の煙が深い青に溶ける おれは遠くばかりを見すぎていたのかもしれない あらゆる樹木が空に手を広げている 空から降ってくる光の粒を食べている そこからだとどんな風に見える? 最果てを目指した勇者…