無題
ピアノの粒の階段をぐるりと駆け下りる
そのたびに陰影は濃くなって
今ここにいるのか
今そこにいるのか
目を閉じたときの魂の重さを測っている
遠くにこだまする太陽の声をきく
窓から浸透する影に
思い出し方を忘れた記憶を手渡した
天井も壁もどんどん影に覆われる
ここにいればどんな季節にもなれる
古書のにおい
はじけるビー玉
不安の色を風の波動に合わせて
新しい神様の名前を教えて
物語とそうではないものの狭間に立って
あのときの嘘をいつまでも悔やんでいる
夕さりの赤が追いかけてくる
両手を広げる
蔦が絡まっていく
人形が歌いだす
細く儚い声
この悲しみに名前をつけたくない
空蝉の体が血液を運ぶ音に耳を澄ます
青白く光る糸
時間の波に沈んでしまう
心地よくだらりと