日報

あるいは遺書

りゅう

あくび

感情が絵具のように混ざり出す


嫌な感覚じゃない


たくさんの言葉がファンタの泡のように浮かんでは消えていく


切り取られた映像や音


体温や匂い、いつもそこにあった


子供の手を引く母親、桜並木


足早に横切る野良猫


生き場所をなくした幽霊や


不安で眠れない女の子が


必死で今を捕まえようとするように


そうしたくなくてもそうするしかないから


僕たちは絵を描くよ


僕たちは、物語を、はじめる


神様の息の根を止めるために


最果てへと旅立った勇者は


もうここにはいない


跡形もない


さようなら、影


ありがとう


果てしない空を仰ぎ見て


ひんやりと冷たい水に足を浸した


もう僕はいつ消えてもかまわないと思った


でも夜になる前に家に帰らなきゃな


あくびをふたつ


変わってしまった形のために


失くしてしまった記憶のために


飛行機、胎内の夢


地球はそれでも回るから


あなたの中に悲しみという感情があること


それがこの物語を聴かせようと思った理由


物語はいつだって声によって語られる


永遠にねじれ続ける二重螺旋


今見えている世界は完全じゃない


足早に横切る野良猫


桜並木、母親の手を引く子供


白と黒の間の色でどれだけ多くの風景を描けるか君はまだ知らない


ざわざわ


風が木の葉を揺らす


どうか名前のない感情の渦を拒絶しないで


真っ暗な海が星の涙を流す時


あくびをふたつ


変わってしまった形のために


失くしてしまった記憶のために