日報

あるいは遺書

りゅう

1995年

手のひらをすり抜ける


粒子の熱


昨日まで記憶だったもの


もう見えない


季節の中へ入っていく


水面を渡る風が


温かくて冷たい


逃げよう


夜にだけ咲く花を見つける


怒りをほどいて


対立する者たちは


手を差し伸べ合う


命を抱いて


影と影の影は踊る


運ばれる


やまない雨と虹


右足、左足、交互に


響いては反射して


誰も知らない小さな優しさを


絶やさないように


心地よい静寂


始まりの朝


くぐもった鼓動の音


1995年に帰る


見るものと見られるものの境目はない


干渉しよう


思いきって飛び込む


白い泡


ひとりぼっち


たのしい


ここにいるけどいない


手を伸ばして


成長する


空へ


振り返るともういない


さようなら


皮膚を満たしていく


まだ言葉になる前の声で


伝えたい


そうしたかった


曖昧に手を振る


光の射す方へ


鳥のように、魚のように


歌う


できる限り大切に


川は海へと注ぐ


続いていく


印をつける


写真を撮る


いつでも思い出せるように


また戻って来れるように


手を合わせて祈る


粒子は動きを止め


虫たちも静まり返る


音もなく


あの時の君が浮かび上がる


帰ろうよ


ずっとそこにいたの?


安心する


たのしいね


窓を開けて


指し示す指先


約束を返しにいこう