日報

あるいは遺書

りゅう

9歳

夏の台所


心臓の音がうるさい


9歳


天国や地獄をまだ知らない


そこにいることを知らない


まだ知らないことを知りたい


なんでもいいから


耳をすませる


感覚を信じる


遠くへ


蝉の抜け殻


太陽を集める


大昔からある物語


厳かな沈黙


みんな黒い服を着て


波の音


幽玄に揺らぐ


幽霊に怯える


給食を最後まで食べれない


あの子が笑う


生き物たち


一つになる


分裂する


思考が止まる


帰り道


どこまでも続く


いつまでもねじれる


文字の連なり


歩きながら本を読む


右足、左足、左右非対称に


トンネル、海


空が下にある


どんなに高く飛んでも


地面に吸い寄せられる


この身体を必要とする誰かがいるから


目を瞑る


耳をふさぐ


しゃがみこむ


手と手を重ねる


成長なんてしなくていい


存在を信じる


影をもっと大きな影が包む


夕焼けの向こう側から来る風


凪いで


どこまでも歩く


目的地はいらない


移動した距離だけが次にやるべきことを指し示す


生まれ変わる


いつか誰かに会いたい


つくった歌を聴いてほしい


できれば愛を交換したい


柔らかくて普遍的な


同じ時代に生まれたんだから


消えた星


枯れた海


こぼれた花


翅が落ちて


底から見下ろす


飛行機雲


青いゆらめき


そばにおいで


幻の声


不在がある


過去と未来を統合する


混乱


暴力の痕


しゃくりあげる


大きな虚無に抱かれて


通り過ぎる


透明な手が触る


その陰影の中に溶けたい


混ざり合ってわからなくなる


静けさと幸福


罪を清める


木霊して


時がそよぐ


ゆっくりと壊れていく


季節が虚ろう


心が詩を編む


鳥になって、魚になって


瑞々しく、忌々しく


次の円が終わったら行こう