日報

あるいは遺書

りゅう

やさしい

青や橙色の淡く霞む空


金色の風のそよぐ丘


天気輪の柱に沿って


誰もいなくなった後


ここは夢の中の世界


水底の石のように


夜を切り裂く鳥のように


春の幽霊のように


やさしい言葉を使いたい


光の粒ひらひら舞う


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自殺した朝


天使の羽を分けてもらった


心臓の音楽


異国を旅する


時の川にそっと手のひらを浸して


大人になっても


悲しみは悲しみのまま


太陽は遠くにいた


皮膚が捉える

 

無題

渦を巻く内部


白い湯気が消えていく


木立の蠢き


何一つ必要なものはない


時間は流れ続ける


ささやかな贈り物


夜が手を伸ばして


想像もできなかったようなこと


ずっと昔からここにあるもの


何もかも忘れて動物のように泣きたいと思った


永遠に間違ったまま


微かに甘い香り


ゆるやかにほどけていく風景


そのまま、そのまま


呼吸の方法を忘れても


名前の意味を失っても


過去と未来が混ざり出しても


そういうものだから


また会えたらいいけれど


冷たい水をすくって飲む


もう遅いかな


体中が透明に満たされていく


少しだけざわめく、だけどもう怖くはない


温かい約束をしっかりと抱きしめて


失われる瞬間までちゃんと憶えていて


深く大きな穴に花びらは吸い込まれて


絶え間なくゆらめく火をただ見つめている


本当も嘘もみんな同じもの


兄弟のようなもの


あなたの優しさが誰にも損なわれないように


羽根を拡げる


手を握る


波のように伝わってくる


後から思い出してやっと意味がわかる


守りたかったんだ

水中に吹く風

白いもやもや


羽根が生えたら


魂の重さ


虹のひかり


アメーバだった頃の


ノアの洪水


蔦が絡まる


オルゴールの信号


家に帰ろう


泡を吐き出して


手のひらのカナリア


声の形


お祈りをします


水中に吹く風


水中のゆらめき


もういない人が今ここにいる


沈んでいく


街が見える


年をとった太陽が


絵本の中


廃墟の神殿に


綺麗な赤い髪を


ゆらめいて花が咲く


時計の針を刻んで


台所の陰影


沈黙を構成する


小さな妖精たちが


深く沈みながら笑う


デオキシリボ核酸


星巡りの歌


はいといいえの間の躊躇いを抱きしめる


体内を季節が馳せる


迷子になりたくなって


逆さまから宇宙を見下ろす