日報

あるいは遺書

りゅう

見る

光の雫


影を追い越す


電車がくる


ねえ、呼ぶ


もう何も思い出さないで


この感覚を書き留める


服を着て夢を見る


公園に行く


耳を塞げば生まれる前に戻れる


水の中で


意識の境界を跨ぐ


天国にも地獄にも近い場所


でも、どこでもない


飛行機を飛ばす


ゆっくりと滑っていく


そのすべてを見る


溶けそうで、消えそうで


遠くにいて


青く照り返す


書き出しの言葉はいつも迷う


届くかどうか不安で


だけど精いっぱい手を伸ばしている


私の知らない場所で


まだもう少しここに座って居よう


風景が風景を連れてくる


それを見るために


ピントを合わせる


他のものはぼやける


でも気配を感じる


もういない人も


まだそこにいる


身体を失った後も


心を失った後も

 

3/13(土)雨

目覚めると雨が降っている。雨粒がパラパラと屋根に打ちつける音を聴きながらまた眠りに落ち、ということを何回か繰り返して、11時起きる。昨日寝たのが0時頃だったので、11時間眠ったことになる。流石にこれだけ寝るとすっきりしたような気がする。奈緒はまだ寝ている。洗濯機を回す。コーヒーを淹れ机で詩を書く。洗濯機がピーと鳴る。奈緒起きる。ハチドリに雨を見せる。頭の中がやけに静か。気圧が下がってそれに慣れ始めた時が一番過ごしやすい。昨夜は、週に一度の楽しみのバンド練習がなくなってしまったことが悲しくてしょうがないとずっと考えていたけれど、それも一つの気分に過ぎず、今朝は、楽しいとは言っても人と関わるということはどうしても心の負担を強いられるものだし、こうして何事もない日々を静かに暮らしていくのも悪くないかなというような気がしてくる。でも、また何かを一生懸命やりたくなったりするのだろうか。そういえば、この前「雨嫌いだけどりゅうが雨好きだから雨降ってたらよかったと思うようになった」と言われたのが嬉しくて、ずっと頭に残っている。朝食バナナとヨーグルト。12:30奈緒と連れ立って外出。一時弱まっていた雨脚は、また酷いザーザー降りになっており、エヴァを観るのに相応しい日だというような気がする。雨が染み込んできてほしくないので、駅まで爪先立ちで歩く。水溜りをぴょーんと飛び越える。防水スプレーの効果もあってか濡れずに駅に辿り着くことに成功。快速急行新宿行きに乗車、新百合ヶ丘多摩線に乗り換え、小田急多摩センターで下車。丼ぶり屋で海鮮丼を食べる。トイレに2回行き、ドリンクなどは注文せず、水分補給も最低限に留めた。14:30戦地に赴くような心持ちで覚悟を決め劇場に入る。CMとCMの間、大スクリーンで相当の人数がいるにも関わらず、話し声がほぼなくシーンと静まり返っているのが異様。人々が神経を張り詰める気配が伝わってくるような気がする。本編が始まる。最初から最後までずっと泣き、マスクと涙を拭う袖がぐしょぐしょに濡れる。嗚咽が漏れそうになるのを何回か我慢した。映画の感想は書かないでおく。エンドロール中に席を立つ人が一人もいなかったのはすごいことだと思う。半ば放心状態で劇場を後にし、外に出ると雨は上がっていて、雲の隙間から青い空がところどころ見える。遠くのビルが夕陽に照らされて金色に輝いている。風が木の葉を揺らすたびに水滴がぽたぽた垂れる。いい風。夕景のビル群の間から大きな虹が真っ直ぐ立ち昇っているのを見て、思わず足を止める。なんというか、自分の心の中と現実世界が少しだけリンクしたような、運命的な感じがして、驚きと感動があった。こういう嬉しい偶然を天に祝福されているという風に捉えるのも悪くないのかもしれない。和気あいあいと虹の写真を撮る人たちの群れに混ざって、自分もスマホのレンズを空に向ける。

形になる

ひらく


最初の言葉


埃が舞う


時間がたつ


背中が曲がる


あなたはだれ?


小さなドア


いただきますして


チャリを漕ぐ


仲良くなりたい


宇宙の言葉


0に近づく


炎のように冷たい


ごめんなさい


戻れなくなる


遠くで、君が、


その空白を守る


柔らかな夕


言い訳を積み上げる


忘れたかった


風が皮膚を包む


形になる


透明にもなれる、いつでも


雨に歌えば


運ばれていく


きっとほどくだろう


街灯が静かにうなずく


橙色になって


取り返しのつかない全てを


連れ去る