日報

あるいは遺書

りゅう

きのうのつづき

揺れながら過ぎる景色。車の中から、窓に当たる雨粒の音を見ていた。どこに運ばれる。ねえこれからどこへ行くの。黙ったまま質問した。神へ。訊きたいことがあるけど、言語化できない。素直に、純粋に、愛と光を与えてください。いても、いなくても、そうしてください。1でも、0でも、過去でも未来でも。
お母さんに汚いと言われたから俺は汚いのだと思った。当然そう思った。だってちゃんと均等に四角で区切られているからどんな声も届かないよ。現代社会とか。溜め息ばっか。こんなにもたくさん表現する言葉があって嬉しい。書いても書いても終わらない。結局は全部同じようなことを言っているに過ぎないのだとしても。豊かだと思う。自分のやりたいことを全部やれる時なんてほとんどない。こんなのはしょうもない快楽だ。誰にも会いたくない。
自我とかいう無意味なものに固執し続けることに意味があるのだ、それを自分が受け入れてあげられるなら。雨粒のような言葉が降ってくる、無数に、優しくなれる。始まりはない、終わりもない、そんなことを思う、窓を開けて。心という海の中へ深く沈んでいく途中、どうでもいいような記憶が色彩を持ち始めて、それは今目の前にある風景に変わって、聞いたこともないような声色で話しかけてくる。怖くもあり優しくもある。ここにいてもいいかどうかは……でもここにいるんだから、ここにいてもいいということだ。プランクトンになる。ずっとずっと君に会いたかったんだよ。言葉は表現した途端に常温で気化する。そしてあの夏へ。どの夏へ?分岐点は無数にあったよね。もしかしたら愛し合えたのかもしれないね。あの夏で。でも俺はやっぱり自分のような弱い奴が嫌いだった。それは、様々な影響があって。白い服を着た人にあてどもない話を聞かせたりもしたけど終わりがなかった。明けない夜はないっていう人もいたけど、まあそれはそれとして。そうやって切り分けて、まな板の上で生き方を学ぶ。あれとこれは何も関連しない、孤立したままインフラは整備されない、いつまでも原始のまま黒と白を弄ぶお化けの胎内の崩壊だ。つまらないですよね。えへへ。ごめんね。期待に沿えなくて、こんな夜の真ん中で、こんな自分が肉体を持っているということ。そしてそれをもて余している。感覚器官は出し入れを繰り返す。歌にもなりそうもないくだらない伝わらない黒、真っ黒な何かが背後にいても、それはそれ、仕方がないから、ただ態度で示すだけ、何も言わずに、煙草を吸うのが好きだった、青空の下で。
出かけよう。今が何時でも構わない。君に友達がいてもいなくても。無条件の愛。無尽蔵の愛。概念としてそこに置いておきたい。Wikipediaに書いておいてくれ。何らかの方法で意識の裏側に共有しておいてくれ。君に親がいてもいなくても。いつでも、どこでも、きっと子供は育つよ。太陽と月、青空と夜空。墜落する飛行機、行方知れずの探査機、無重力、今も痛む古い記憶、時計の声。もう戻れないよ。でもいつでも帰れるよ。過去は変えられるよ。未来を体験したよ。また回転する穴の中へ。ありとあらゆるすべてを覆って。透明の、望むもの。滑稽な嘘。もうちょっと。掬い取って。救い出して。9歳の自分に言うように。新鮮な空気を吸うように。生きたい。お前は今まさに命を食っている。それこそが聖なる儀式でその音が耳に流れ込む、脳へ。脳は心を繋ぐデバイス。心は目に見えない。でも色はある。そう、明確に。贅沢に。世界を舌に乗せて。世界の舌に乗せられる。入っていくカラフル。もうこれでいいや。もうこれで完成だ。もうこれで思い悩まずに済む。もうこれで痛まなくていいんだ。悼まなくていいんだ。ここに置いておこう。何も言わずにどこかに行こう。誰にも告げずに死んでしまおう。それから誰かの家に遊びに行こう。風に乗って。嵐に吹かれて。空気中の塵。宇宙の鍵。
俺は、ちゃんと胎内から生まれたよね。温かさを知ってる。細胞に聴いてみる。着地点を思い描いて見る。見えるのは青空。青さに満ちたカプセルの中。どうなってもいいやっていう瞬間に進むすべてのこと。ぼくの背中を押していく。教えていく。追いかけてくる過去と未来の絡まった糸。いつまでも子供でごめん。伝わらない言葉ばっかりで。言った瞬間に違うんだよって思うんだけど。手を伸ばしてももう自分がどこにいるかもわからない。