日報

あるいは遺書

りゅう

3/6(土)晴れ

11:30起きる。昨日夜ふかしをして酒を飲みすぎたせいで頭が痛い。カーテンの隙間から白い光、雨予報だったのに晴れている。ハチドリに光を当てる。コーヒーを淹れ、詩を書く気分にはなれず、変身の続きを読む。朝食は豆腐とヨーグルト、バファリンを投与するも効かず。奈緒がかなり気合の入ったお洒落をしている。なにやら複雑な三編みと髪飾り、ワンピースにはブローチみたいなものがついていて、舞踏会のよう。13時頃奈緒と連れ立って外出。ぽかぽかとした陽気に重い気分が少しほどける。首筋が暑さに焼けるような感覚があり、少しだけ夏の気配を感じる。アコムのクレジットカードの金を払ったら、ATMの横に落とし物のカードが置いてあって、一旦はスルーして退店したものの、ああいう場所はお金に困った人が頻繁に出入りするから100%悪用されるという話になり、また戻って、奈緒が電話をかけてくれた。奈緒偉い。小田急線新宿行きに乗車、登戸で下車。サイゴンでカレーを食べるつもりだったが、時間が遅く昼の営業は終わっている。カレーが食べれる喫茶店を調べてくれてそこに向かう。店の名前は忘れた。店員さんのいる前でIT野郎がクラフトビールを飲む店だね!などと大きな声で言ってしまい、そういうこと言うのやめなよと窘められる。本日のカレーとブルーベリーラッシーを注文。ドリンクがセットでついてくるのは平日だけで、単品で頼むと500円だったので一瞬やめようかと思ったが、お金の心配をする必要がないほどの稼ぎがあることを急に思い出し、やはり注文することにした。本日のカレーはオクラのネバネバカレー、スパイスが効いていて元気が出る。川沿いの道に面していて、前を通る人々とたまに窓越しに目が合い、この店で食事をしている様子をアピールする役目を負っていると思う。カレーを食べ終えて、歩いて橋を渡る。上着を着ていると暑いくらいだったが、風がびゅうびゅう吹いて、ちょうどいい温度に冷却される。奈緒が唐突にゴミ虫くんというキャラの真似をし始める。好きなゴミは埃、嫌いなゴミは誰かが噛んで捨てたガム(命の危険があるから)。橋から下を見下ろすと、茶色く濁った川面がたぷたぷ蠢いている。結構な高さがありまた水深がどれほどあるかわからないので、落ちたら助かる保証はないなと思う。川沿いを、前に住んでいた方に向かって散歩する。釣り人や走り人、キャッチボール人を多く見かける。満開の梅に葉が混ざり始めている。橋の下に腰かけて髪の長いアーティストがギターを弾いている。いつもジョギングしていた堤防の道が堤防を拡張する工事のために封鎖されていて、河川敷に即席で作られた迂回の道を歩いていく。河川敷の芝生はやけに綺麗に整えられていて、自然の中にあるはずなのに荒涼とした感じさえする。スタジオに入る金をケチってよく曲の練習をしていた木のそばのベンチは撤去されており、最初その場所だということがわからなかった。風景というのは人の手の加わる限り変わり続けていくんだなぁと思う。ダムみたいになっているところに鴨が大勢いて、しばらく観察する。鴨に話しかけるも、水音が大きすぎてかき消される。木の枝に鳥が数羽、奈緒が家から持ってきた食パンを投げるが風に飛ばされ全然届かない。鳥の方も食パンを目で追ってはいるが、微動だにせず、やがて全て飛び立つ。迂回道はだんだん人の気配がなくなっていき、また途中で住宅街に通じる道もなく、さっきすれ違った人は一体どこから来ていたのか?やはりこの世界はバーチャルリアリティーで、すれ違った人々は皆CPUなのか?と思う。迂回道の終わるところから住宅街に入り適当に歩く。セブンイレブンでコーヒーを買う。前に住んでいた家がありそうな方角に歩を進めると、やがて知っている通りに出る。かつて住んでいたアパートは予想以上にボロくて小汚い建物だった。とにかく住み心地のいい印象だけが残っていて、いい暮らしをしていたような記憶があるので、最初それとわからなかった。誰か入居しているようだったが、ほとんどの窓の雨戸が閉じられていて、せっかく日当たりのいい部屋なのにもったいないなと思う。隣の部屋と、隣の隣の部屋は誰も住んでいないようだった。何百回と歩いた道を通って狛江駅に向かう。特に懐かしさなどは込み上げず、見知らぬ馴染みのない道を歩いているような気さえして、狛江での暮らしをほとんど忘れていることに気付く。少なくとも地元の町並みを久しぶりに歩いた時のような感慨はない。1年半も暮らしたのに……。大人になってからの1年半というのは大した期間ではないのだろうか、それとも俺が上の空で生きているからか。大通りに出た時に働いていた新宿のファミマのことを連想して、真っ先に思い出すのがそれかよと思う。バイト帰りによく買い物した三和に自動精算機が導入されている。よく一緒に行った駅前のフレッシュネスバーガーが餃子酒場になっていて愕然とする。テラス席から通りを眺めるのが好きだった。歯医者の予約をばっくれて違う歯医者に変えたという思い出話をされたが、全く思い当たる節がなく、完全に忘れている。ポエムの店内を覗き込み、遠巻きにモーリーさんらしき人影を確認する。だるまのめ(食べると絶対にお腹が痛くなるラーメン屋)は健在。東都はリロに吸収されていた。最初に下見のために奈緒と2人でこの街に来た日のことをなんとなく思い出す。たくさん歩いて足が棒のようになる。17時頃、疲れ果て各駅停車の町田行きに乗車、奈緒はグースカ寝て俺は音楽を聴きながら目を瞑る。帰りにスーパーに寄るが、疲れすぎて夕飯の献立が考えられない。冬の間鍋のスープが並んでいた棚にパスタが陳列されているのを見て、唐突にジュノベーゼという単語を思い浮かべ、ジュノベーゼの具材を買う。バファリンを飲んでも治らなかった頭痛がいつの間にか治っている。家に帰り、2人してぐーたらとベッドに横になる。地球の内部のマントルとか核についてのサイエンス番組の動画をYouTubeで見ていたら猛烈な睡魔に襲われ、眠りに落ちる。20:00頃起きる。今から料理をしようという気にはなれず、出前館で中華飯と青菜炒めを注文。変身の続きを読みつつ待つ。30分後届く。ご飯の量が馬鹿みたいに多く、ドッヂボールが出来そうなほど重量がある。油っこい。食べきれず、ご飯のみ半分ほど残す。風呂でビル・エヴァンスを聴く。どちらかといえば気分は暗く、余計なことを色々と考えてしまう。何も選びたくない、選ぶ勇気がない、今ここにあるものだけに気づきながら、目の前のことを淡々と静かにやっていければいいのに、と詮無いことをまた思う。風呂上がりに変身を最後まで読む。自分らしく生きるとは……みたいなことを少し考える。