日報

あるいは遺書

りゅう

東京について真面目に考える

目を閉じると自動的に音楽が流れる、ぼくはその中へその奥へ、自動的に歩いていく。想像力が退廃している。無差別に混ざっている。記憶が機能しない。植物が空を目指さない。止まっているここで、全力で回転してみる。ますます混ざっていく。他人の傘に黙って入りたい。笑っている子供の親譲りの顔面。ぼくは自分にまみれている。泥人形。水に入りたい。狭間でこの歌が笑うならばいつから何をその瞳に映す、別れを来いと、混ざる夢、幽体離脱、わかっている、海を越えていく。布団の奥へ、もっと奥へ、冬の中へ、温度の魔法をバラバラに分解しながら、今会いたい人はいるのか。細長い線、細くなり続ける。また表情筋に力が入りすぎている。夜は騒々しい音を立てて、組み立てる、オブジェ、周囲はオブジェで敷き詰められている、脳髄の運動。止まらないのは何故なのか考えない。凍る夜がいつまでも変な顔で不快だ、吐き気を感じる。もう何もかも棄てて打ち上げられてしまいたい、どんどんその奥へ止めどない、肉体は発情していて、精神は水浸しで冷たい。耳の奥でギリギリ言っている小さな子供の幻影を切り裂いて冷たく醒めていく、切り裂くことは好きだ、スカッとするから、切り裂くためにあるものがたくさんある、切り裂くことは好きだ。湖にズブズブ沈む静止している銅像。微粒子レベルで速さが溢れ出す、今目の前に見えているものだけがすべてなのだとしたら、もう何も信じられなくなりそうだ。醜く咲く欲望だけがすべてなのだとしたら、音楽なんてやっている場合じゃないだろ。都合よく装飾された暴力の穴に吸い込まれて、奇妙な手術を受けている。ここにいる人間はみんな知らない人で、記号だ。無感覚な床を踏みしめる、気付くと走り出している、慌てて立ち止まる、その後の動作が思い付かない、静止したまま揺れる。静止したまま歪む。静止したまま落ちる。どうでもいいんだ、言葉で語られることなんて、神は俺に話しかけようとしない、季節も命も重力も俺と仲良くしようとする気がない、俺はこんなにも譲歩しているというのに、と俺の細胞はそう思う、全身の細胞のうち1億分の1くらいは。だが、無視して肉を食おう。ぐるぐると渦巻くすべての場所、煙が舞う、またかと思う、これはデジャヴだ。二つ目に殺人を置く、そして一つ目の目、うるさい消えたいもう嫌だ、学生、目に見えない死体を跨いでいくと仮定する。赤黒い妄想、何らかの逆転だ、理由はわからないけれど、柔らかいことをしたい、死にたくないけど一旦肉体を消したい時がある。道に金が落ちている。金が散らばりまくっている、もう手の施しようがないほど、ひどい、あらゆる場所にその破片が、散らかっている、ごちゃごちゃと、うるさく、まとまりなく、ぼくはそれを見て諦める。こんなにも絶好のロケーションでふわふわできないなんて、大切なものの価値が急速に低下していく、呼吸が弱くなって、血圧が下がって、視界が汚れた白い膜に覆われる、意識が震えながら収縮していく。その時、恐ろしい速さで運ばれているということを実感した。何か一つのものになりたい、なんでもいい、それが一つであれば、それでいい。空想の世界で空白を埋める。生き甲斐が適度に生き甲斐じゃなくなってきて、生きているのかどうかわからなくなって、月を見た。そしたら寝てた。おっぱいに挟まれる。顔が。夢の中で夢を見てその夢の中でも夢を見ているから脳みそがあまりにもでっかくなりすぎて重い、透き通った空気が徐々に乱されている、膨張しすぎてお気に入りの箱から出られなくなった。テレビの中の曖昧な絶対、とろけきった態度、ネットワークが浸透する、雨のように。意識のチャンネルを切り替えて、ぷつんと、深夜3時、東京について真面目に考える。でもその後寝る。骨折をしていて、快楽を正しく受けられない。たまに俺は化け物だと思う。だけど、俺が化け物だとしたら、人間なんて全員化け物だろ。だけれども、たまにこの地球上に人間は自分しかいないと感じる。切実に、染み込むように、当たり前のように、嫌らしく、言葉にならずに、そう感じる。人の悪口を言うとその分自分に返ってくるという厳然たる曖昧な掟を、ある日公園を歩いているときに、何の前触れもなくいきなり実感した。あらゆる言葉が意味を持ってぼくの体内に侵入してくる、強制的な意味、意味に犯されて醜悪な子供を産みまくっている、死に絶えた精子の一つ一つにもそれぞれの意味があって、声高に権利を主張している、メロディーは片端から打ち消される、意味の行列、意味の集団心理、それらは干渉しあい、さらに複雑な模様を描きながら、ありえない音を立てている、ぎゅるぎゅる、ぎこぎこ、ぼくはリセットボタンを押した。それは麻薬のように白く染めた。喜びの極地と悲しみの極地を2秒間で一度で味わい、全てを知った後全てを忘れた。